「堀江はるよのエッセイ」

〜日常の哲学・思ったこと考えた事〜


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おふくろ


  こういうことは、書かないほうが良いのかもしれないが…

  私は、かなり髪が白くなってきている。
  チャコールグレーと白と半々といったところだ。
  映画館でシニア割引を申し出ても、証明書類の提示を求められることは少ない。

  染める予定は無い。
  お洒落にマメなほうではないから、染めた後の手入れに自信が無い。
  一度染めたとして、二度目に美容院へ行くのを先延ばしにしているうちに、
  頭が白と黒の染め分けになりそう。それではディーズニーのアニメーション
  映画「101匹わんちゃん大行進」の魔女だ。

  あの魔女は好きだ。白と黒のブチの毛皮のコートを作りたくて、ブチの子犬を
  99匹集めるが逃げられてしまう。手下に追わせるが、ヘマばかりで捕まらない。
  終いに自ら車を運転しての追跡シーンにはアニメを超える生々しい迫力があって、
  いやぁ、面白ったら無い。


  話を戻そう。
  先日、郵便局から送金をした。
  ある団体の会費で、一年分を前払いすると安くなる。
  払込み手数料は先方持ちだけれど、記載を残したいので、
  通帳で口座から送ることにした。

  本局なので、ATMは数台並んでいる。
  私の番が来て、その中の、他のより一まわり大きな機械が空いた。
  ふと悪い予感がした。図体の大きな機械には、旧式で問題なのが多い。


  まぁいいや…と、画面の指示に従って操作を始めた。
  払込み票を入れる。いくつかの「確認」を押したところで、
  現金を入れるよう指示が出た…違う…私は通帳から入金したいのに…
  操作を間違えたらしい。取り消しボタンを押す。やりなおそうとして、
  聞いたほうが簡単だと思った。向こうにサービス担当の局員が立っている。
  呼ぶとすぐに来た。

  何か間違えたらしいので、教えてほしいと言うと、
  彼は私の手から払込み票と通帳をを取って、機械の前に立った。
  40代前半だろうか、肩の盛り上がった大きな体が、機械の前を占領する。
  私は横から首を突っ込むようにして、彼の手元を覗き込んだ。


  払込み票を入れて、画面を見つめる。
  太い指がボタンを押す…確認…確認…確認…
  送金先、金額、住所、氏名、電話番号…

  あ…ウ…これって私のプライバシーじゃないかしら?

  私が神経質なのかしら?
  いや、そういうことではない気がする。
  どうして彼が、私に代わって「確認」のボタンを押すのだろう?
  ことを荒立てない表現を探して、私は声をかけた。


  “あのう…やり方を教えて下さると次から自分で出来るんだけど…”

  “あ、こう言っちゃナンですがね、この機械はムズカシイんですよ。
   とってもね、ムズカシイ。あっちだとカンタンなんですがね”


  操作を続けながら彼は答えて、左手を他の機械のほうへ振ってみせ、
  続いて通帳を機械の口に、左に寄せて突っ込んだ。


  “あ、右に寄せないと入らないわよ、そこに書いてあるわ”


  郵便局の機械は、右に寄せて入れないと、通帳を受け付けない。
  ゴニョゴニョ言って、彼は通帳を入れなおして、もう一つボタンを押した。
  暗証番号を入れる段になって彼は立ち去って、私は続きの操作を終えた。


  黙って帰ろうかと思ったけれど、これからのこともある。
  スタートを切って間もないJPの将来を考えて、
  私は、入口近くの定位置に戻って立っている彼に声をかけた。


  “あのう、操作の仕方をね、教えて頂きたかったの。
   そうしたら次から自分で出来るでしょう?”


  ニヤッと笑って、彼は首と手を一緒に振った。


  “あ、あれはね、ムズカシイからね、ムリですよ。
   教えてもね、おぼえられない、ムズカシイからね。
   うちのオフクロもね、教えてやっても、すぐ忘れちゃう。
   次ぎはもう、おぼえてないもんね”


   …………………………………………………………………


  言いたいことはある。数々あるけれど、たぶん書かないほうが良いだろう。

                                 2008.3




桜の下で


  臙脂色のガクが目立つようになった桜の下を歩いていたら、
  ふっと歌の切れ端が浮かんだ。“さくらの下で…”

  いや、この言葉はもうホームページで使ってしまった。
  これから歌にしても、もう言うことは無い気がする。
  何かもう少し違う言葉を見つけたいなぁ、え〜と、え〜と…

  歩いているのはバス通り、ただいま大きな神社の前に差しかかったところ、
  これから母校のホームカミング・デイに行く途中。


  五つの音と、それと一緒に言葉が浮かんだ。
  私の嫌う「噛みすぎたチューインガムみたいな感じ」が少しある。
  けれど、いま私の心にあるものを、引き出してくれそうな感じもある。
  はじめの二つの音の間の音程が開いているのが、良くないのかもしれない。
  何やら汲み上げるようで重い。音程を狭くしてみよう…


  歩きながらリュックから紙とボールペンを取り出す。
  大雑把に5本の線を引いて、音符と言葉を書き付ける。
  思いつきを紙に固定したのに安心して、小さく歌いながら先を考える。

  どうもニヒルで暗い。
  やっぱり響いちゃってるなぁ、こないだの一件が。まあ無理もないか。
  心に淀むもの、重いものを、そのまま差し出すのは私の流儀でない。
  ハテ…どうしたものか?

  ふと、これからホームカミング・デイで会う友人の顔が浮かんだ。
  順風満帆とは言いかねる人生の翳りをとどめない、箱から出したての桃のような
  ふんわりと、のどかに優しい雰囲気の彼女が、この歌をうたってくれるはず。
  作りかけの切れ端と、のどかな歌い手さんの面差しと、陽ざしの中の桜が、
  心の中で混ざり合って、何かがふつふつと活きて動きはじめた。

  書き付けた紙はリュックのポケットに押し込んだ。
  これは発酵を待とう…


  次ぎの朝、ふたをあけてみると発酵はほぼ終わっていて、
  私は二日かけて、新しい歌を五線紙に書き留める作業を終えた。
  心の淀みはサラサラした流れになって、その中に問いが一つ浮かんでいる。
  その問いが、歌のテーマになった。

  いつか聞いて下さい。

                           2008.4




ホームページ


  次回の更新は5月15日…
  しばし考えて、15を17に書き換えた。

  力ずくでも間に合わせるべき事と、そうでないことがある。
  カタツムリが走って、どうなるでしょう。


  目論みが常に能力を上まわる、凝り性と不器用。
  それでも辛うじて破綻をきたさず、ここまで来たのは、
  無理と思うと、潔く尻尾を巻いて退散して別な道を探すから。
  いや、目論みそのものも、あっさりコロコロと取り替えるからです。


  数日前まで、6月1日の演奏会のチケットとプログラムを作っていた。
  こういうのは大好きで、ひとに頼みたくない。
  目をチクチクさせて、試し刷りの山をこしらえて、やっと完成。
  にんまりしたは良いけれど、ホームページ更新の余力が些か不足。
  でも…だって…いいんです…そうしたかったんですもの。


  歯医者さんへ行く。
  ばらの花びらを摘んで化粧水を作る。
  近所のリサイクルショップを覗く。
  ローズ色とグレーと白の縞のTシャツを買った。
  Marisa Christina だそう…五百円也()。


  スーパーで買物して、お昼はきつねうどん、晩は鯵を焼いて…
  そういう合間にパソコンを開けて、兎も角もポチポチとキイを叩くと、
  無くなっていたはずの余力が、微かに微かに復活の兆し。
  なんか書けそうな気配です。


  ホームページを始めたときに、二つのことを決めました。

    @ 月二回、必ず更新する。
    A 無理はしない。

  時々15が、17になったり18になったりするのは、
  この相反する二つのルールのせいです。

                           2008.5


演奏会


  演奏会が終わった。
  6月1日「和の響き〜古から今へ 第一回」 

  2002年に東京へ住まいを移してから、いろいろあった。
  演奏会など、もう出来なくなったと思っていた時に、きっかけが与えられた。
  そのときの情景はビデオのように憶えている。嬉しかった。

  心にかけて下さる方たちがあって、聞きにいらして下さる方たちがあって、
  安心して作品を預けられる良い仲間に恵まれて、幸せな演奏会だった。

  お蔭様で…と言いかけて考える。
  自分と人とのつながりに於いては、それで良い。
  日本の心もち、日本の言葉だ。他の言い方では表せない意味がある。
  
  けれど自分に対して、私は違う言い方をしたい。

    ここまで歩いてきたのは私だ、
    これから先の道を作るのは私だ。
    成功も不成功も自分のせいなのだ…と。

  そういうふうに言って自分にケジメをつけたい。
  お蔭様という言葉には、密かな甘えがありはしないだろうか。


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